その9●住んでいるここが「世界の中心」……
●その9(最終回) 住んでいるここが「世界の中心」
今年(2012年)1月に開催された福武教育文化進行財団の地域文化フォーラム『ここに生きる、ここで創る−地域は文化を求めているか』のシンポジウムで、鳥の劇場を主宰する中島諒人さんが、「地方」のハンデキャップについて次のように話していた。
「東京は全国区だから1億2000万のマーケットだが、実は東京の演劇人口はおそらく10万人ぐらい、20万人かもしれないが。そうした時に、東京の中で10万、20万相手の商売をするのと、僕らは鳥取市は人口最小限だけれども19万人の人口がいる、僕の中ではマーケットの大きさは同じだし、そういう人たちとどういう関係を結んでいくのかの方が面白いなと思っています」
そして「東京と地方の関係がよく言われるが、われわれ地球という球の上に生きていて、円には中心があるが、球には中心がないわけで、僕はここで生きているんだから、ここが世界の中心なんだと。東京とかニューヨークとかロンドンとかパリとか、そういう論理でいえば東京だってニューヨークから見たら…、そういう古い近代的な考え方に縛られるのでなくて、ここは世界の中心で、俺はここで生きている、ここで作るということがすごい大事だなと思っていて。紙で記録を残していく、ここに生きた人たちの何かが記録されていくことは、すごく意味のあるいいこと」
「住んでいるここが世界の中心」——なるほど、岡山のような地方都市では、本を作ったり販売したりするマーケットも小さく、「出版」そのものを成り立たせるのは困難だと思い込んでいたのだが、それはあくまで既存の「出版」の枠のなかで考えるからであって、地域出版社の仕事、やれることをもっと幅広く考えれば、この地域のマーケットは決して小さくない。
それに「編集」という作業は、人と人が顔を突き合わせて進めていく仕事なので、空間的にも人口的にも「地域」の単位が適正なのかもしれない。
岡山県内には、190万人の人がいる。
この190万人に、吉備人出版のことや吉備人の役割(できること)は、おそらく届いていないだろう。
この190万人の人たちとできることも、まだまだ探し切れていない。
「一緒にできる仕事をつくり出すこと」「読者を創造すること」「著者を生み出すこと」。
岡山のなかでやれることはまだまだあるように思う。
仕事を創造するフィールドがあるここでなら、編集・出版をビジネスとして成功させることが可能だ。
少し前に買った雑誌「BRUTUS」No.734号(2012年7月1日)が「あたらしい仕事と、僕らの未来。」という特集を組んでいた。
時代と未来を切り開く仕事と魅力的な企業がたくさん登場している。
そのなかに環境計画やアートプロデュースを手がけるP3art and environmentやデザイン生活用品の販売や商品企画を手がけるD&DEPARTMENTが紹介されていた。
その2社の企業概要をコンパクトにまとめたメモに、主たる業務などを列記したあとに「出版」という項目が入っている。
どちらも出版そのものを主たる業務にした企業ではないのだが、主たる業務を広く情報発信する手段として「出版」を取り入れているのだろう(と想像できる)。
企業や個人の事業や仕事が多様化し、その理解や共感を求める手段としてSNSなどとともに「出版」のもつ機能が見直されている。
企業によっては、いち早くブランディングやプロモーション、リクルートに「出版」を取り入れている。
例えば、マスキングテープ「mt」の大ヒットで知られるカモ井加工紙。
同社と作った『粘着の技術—カモ井加工紙の87年』は、ヒット商品の誕生秘話と企業史とをまとめたものだ。
たまたま幼い頃から「カモ井」の名前を身近に感じていたぼくとしては、同社の「リボンハイ取り」からおしゃれな「mt」に至る変遷が、「mt」というヒット商品の「モノ語り」として役立つ、販売促進を意図した出版企画提案だった。
ところが、出来上がった本を手にした社員からは、「勤めている会社の歴史をはじめて知ることができてよかった」という感想がかえってきたという。
同社の鴨井社長も、このことに少し驚いたと同時に、この本をつくった意義を感じたと話していた。
このことは、同社が「mt」のさまざまなプロモーションの一つであるファクトリーツアーに、先日参加した時感じた。
「mt」の製造にかかわっている人から案内担当の営業社員までの、なんだか楽しそうに仕事をしている姿があった。その一角の販売コーナーでは、数多くの「mt」と一緒にこの『粘着の技術』が置かれていたのを見て、本書が役立っているのを感じた。
これだと思う。ここにヒントがある。
「本」がもつ役割、「出版」という機能。
記憶を記録する=「本」という形にすることで、新たな「物語」=記憶が生まれる。
そしてそれは「歴史」になり、「文化」になっていく。
10年後の歴史をつくるのは、いま生きている私たちだ。
今この時代に、この地域で書き残しておくことが豊かであれば、その地域の歴史と文化はきっと豊かなものになる。そのために地域においても「編集」「出版」のやるべき役割がある。
吉備人はその役割を担う存在でありたい、と。
今年(2012年)1月に開催された福武教育文化進行財団の地域文化フォーラム『ここに生きる、ここで創る−地域は文化を求めているか』のシンポジウムで、鳥の劇場を主宰する中島諒人さんが、「地方」のハンデキャップについて次のように話していた。
「東京は全国区だから1億2000万のマーケットだが、実は東京の演劇人口はおそらく10万人ぐらい、20万人かもしれないが。そうした時に、東京の中で10万、20万相手の商売をするのと、僕らは鳥取市は人口最小限だけれども19万人の人口がいる、僕の中ではマーケットの大きさは同じだし、そういう人たちとどういう関係を結んでいくのかの方が面白いなと思っています」
そして「東京と地方の関係がよく言われるが、われわれ地球という球の上に生きていて、円には中心があるが、球には中心がないわけで、僕はここで生きているんだから、ここが世界の中心なんだと。東京とかニューヨークとかロンドンとかパリとか、そういう論理でいえば東京だってニューヨークから見たら…、そういう古い近代的な考え方に縛られるのでなくて、ここは世界の中心で、俺はここで生きている、ここで作るということがすごい大事だなと思っていて。紙で記録を残していく、ここに生きた人たちの何かが記録されていくことは、すごく意味のあるいいこと」
「住んでいるここが世界の中心」——なるほど、岡山のような地方都市では、本を作ったり販売したりするマーケットも小さく、「出版」そのものを成り立たせるのは困難だと思い込んでいたのだが、それはあくまで既存の「出版」の枠のなかで考えるからであって、地域出版社の仕事、やれることをもっと幅広く考えれば、この地域のマーケットは決して小さくない。
それに「編集」という作業は、人と人が顔を突き合わせて進めていく仕事なので、空間的にも人口的にも「地域」の単位が適正なのかもしれない。
岡山県内には、190万人の人がいる。
この190万人に、吉備人出版のことや吉備人の役割(できること)は、おそらく届いていないだろう。
この190万人の人たちとできることも、まだまだ探し切れていない。
「一緒にできる仕事をつくり出すこと」「読者を創造すること」「著者を生み出すこと」。
岡山のなかでやれることはまだまだあるように思う。
仕事を創造するフィールドがあるここでなら、編集・出版をビジネスとして成功させることが可能だ。
少し前に買った雑誌「BRUTUS」No.734号(2012年7月1日)が「あたらしい仕事と、僕らの未来。」という特集を組んでいた。
時代と未来を切り開く仕事と魅力的な企業がたくさん登場している。
そのなかに環境計画やアートプロデュースを手がけるP3art and environmentやデザイン生活用品の販売や商品企画を手がけるD&DEPARTMENTが紹介されていた。
その2社の企業概要をコンパクトにまとめたメモに、主たる業務などを列記したあとに「出版」という項目が入っている。
どちらも出版そのものを主たる業務にした企業ではないのだが、主たる業務を広く情報発信する手段として「出版」を取り入れているのだろう(と想像できる)。
企業や個人の事業や仕事が多様化し、その理解や共感を求める手段としてSNSなどとともに「出版」のもつ機能が見直されている。
企業によっては、いち早くブランディングやプロモーション、リクルートに「出版」を取り入れている。
例えば、マスキングテープ「mt」の大ヒットで知られるカモ井加工紙。
同社と作った『粘着の技術—カモ井加工紙の87年』は、ヒット商品の誕生秘話と企業史とをまとめたものだ。
たまたま幼い頃から「カモ井」の名前を身近に感じていたぼくとしては、同社の「リボンハイ取り」からおしゃれな「mt」に至る変遷が、「mt」というヒット商品の「モノ語り」として役立つ、販売促進を意図した出版企画提案だった。
ところが、出来上がった本を手にした社員からは、「勤めている会社の歴史をはじめて知ることができてよかった」という感想がかえってきたという。
同社の鴨井社長も、このことに少し驚いたと同時に、この本をつくった意義を感じたと話していた。
このことは、同社が「mt」のさまざまなプロモーションの一つであるファクトリーツアーに、先日参加した時感じた。
「mt」の製造にかかわっている人から案内担当の営業社員までの、なんだか楽しそうに仕事をしている姿があった。その一角の販売コーナーでは、数多くの「mt」と一緒にこの『粘着の技術』が置かれていたのを見て、本書が役立っているのを感じた。
これだと思う。ここにヒントがある。
「本」がもつ役割、「出版」という機能。
記憶を記録する=「本」という形にすることで、新たな「物語」=記憶が生まれる。
そしてそれは「歴史」になり、「文化」になっていく。
10年後の歴史をつくるのは、いま生きている私たちだ。
今この時代に、この地域で書き残しておくことが豊かであれば、その地域の歴史と文化はきっと豊かなものになる。そのために地域においても「編集」「出版」のやるべき役割がある。
吉備人はその役割を担う存在でありたい、と。
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