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一冊のルーズリーフで始める「家族史・自分史」の書き方

151117山陽/武田さん駐在所

昨日の山陽新聞に『駐在所暮らし』(武田婦美・著)を紹介する記事が掲載された。
その反響が大きく、昨日から読者から本書の問い合わせ、書店からは注文の電話が、今朝もまだ続いている。
本書は、警察官だった父と家族の生活をつづったもの。戦後間もない昭和20年代から30年代にかけて、旧久米郡を中心とした駐在所を転々とした家族の記録は、家族史であり、地域の生活史でもある。
著者の武田婦美さんに、本書をまとめるにあたっての話を聞いた。

まず用意したのは、A4サイズのルーズリーフノート。
県立図書館へ通い、当時の山陽新聞をめくりながら、「戦争からの帰還」「警察官」「事件」など、その時代と自身のアンテナに引っかかった記事をみつけては、それを鉛筆でメモしていく。
結果的には、本では使わない記事もたくさんあったが、
「この作業で、当時の時代の空気というか雰囲気がつかめて、記憶も呼び起こすヒントにもなりました」そうだ。

次に、父親の戦争体験に関する資料、警察官にかかわるものや郷土に関する資料を集め、そのルーズリーフノートにコピーははり付けたり、記入していく。
さらに、赴任した駐在所ごとに起こった出来事を、思いつくままに記述していく。
ルーズリーフは、書いたものがどんどん増えても、追加してファイルできるので便利。とにかく、その本を書くうえで必要な情報をこの一冊にまとめた。
ぱんぱんにふくれた一冊のルーズリーフノートが、本書執筆のベースになった。
新聞記事や本の抜き書きなど、時間もかかりたいへんそうだが、武田さん本人の言葉では、「それほどたいへんな作業ではありませんでした」とのこと。
また、いきなりパソコンに向かって書こうと思わず、準備段階でじっくり時間をかけることも大切だ。

このルーズリーフノートを基に、パソコンに向かい原稿を書いていった。
1ページ当たり800文字、239ページの原稿量というと、約19万2000文字。400字詰め原稿用紙に換算して480枚。相当な量だ。
「ノートがあったので、さほど苦労しませんでした。煮詰まったら、書くのをやめる。書きやすいところから書いていく」
書いた原稿は、姉に読ませ、事実関係に間違いなどないかチェックしてもらったり、感想を聞いたりした。身近な読者がいることが、原稿を書き進めるうえで、とても力になったそうだ。

本書の魅力の一つに、会話文のおもしろさがある。
まるでテープにでも取っていたのかのような、リアリティーのあるやりとりが、読む人を惹きつける。
この会話文は、もちろん著者である武田さんの想像の産物。
「ええ、もちろんフィクションです。でも、姉に読んでもらったとき、こんなことを言っていたよねえ、と喜んでもらえました。会話を想像していくところは書いていても楽しいですね」
自分史を書くときの醍醐味のようなものが、このあたりにあるのかもしれない。

武田さんは、本書を自費出版したことについて、「父親からずっと、自分が行った戦争のことを書いておいてくれと言われていたので、本書の中に書きました。少し肩の荷が下りたように思います。本を書く、出版するというのは、確かに時間やエネルギーを費やし、お金のかかる作業ですが、こうやって家族のことを残すことができて良かったと思います」と振り返える。

今は、太平洋戦争中に戦地から家族宛に届いた87通のはがきや手紙を、家族の依頼で翻刻しており、それをまとめて一冊にできればと、2冊目の構想を描いている。

駐在所暮らし
http://www.kibito.co.jp/kikan/978-4-86069-441-8.html
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プロフィール

kibitopub

Author:kibitopub
山川隆之
編集者、吉備人出版代表。1955年岡山市生まれ(旧姓・長井)。岡山市立操南小学校—倉敷市立大高小学校から、倉敷市立南中学校・県立天城高校・三重大学農学部卒業。伊勢新聞記者、備北民報、生活情報紙「リビングおかやま」編集長を経て95年に株式会社吉備人を設立。『絵本のあるくらし』『おかやまの建築家』『のれん越しに笑顔がのぞく』『粘着の技術−カモ井加工紙の87年』『強く、やさしく、面白く』などの編集を担当し、吉備人出版としてこれまでに27年間で約780点を出版。日本出版学会会員、デジタルアーカイブ学会会員、岡山ペンクラブ会員。2012年に福武教育文化賞奨励賞、2013年に岡山市文化奨励賞(学術部門)を受賞。RSKラジオ「ごごラジviviっと!」ゲストパーソナリティー。著書に『岡山人じゃが』(共著)など。

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