一冊のルーズリーフで始める「家族史・自分史」の書き方

昨日の山陽新聞に『駐在所暮らし』(武田婦美・著)を紹介する記事が掲載された。
その反響が大きく、昨日から読者から本書の問い合わせ、書店からは注文の電話が、今朝もまだ続いている。
本書は、警察官だった父と家族の生活をつづったもの。戦後間もない昭和20年代から30年代にかけて、旧久米郡を中心とした駐在所を転々とした家族の記録は、家族史であり、地域の生活史でもある。
著者の武田婦美さんに、本書をまとめるにあたっての話を聞いた。
まず用意したのは、A4サイズのルーズリーフノート。
県立図書館へ通い、当時の山陽新聞をめくりながら、「戦争からの帰還」「警察官」「事件」など、その時代と自身のアンテナに引っかかった記事をみつけては、それを鉛筆でメモしていく。
結果的には、本では使わない記事もたくさんあったが、
「この作業で、当時の時代の空気というか雰囲気がつかめて、記憶も呼び起こすヒントにもなりました」そうだ。
次に、父親の戦争体験に関する資料、警察官にかかわるものや郷土に関する資料を集め、そのルーズリーフノートにコピーははり付けたり、記入していく。
さらに、赴任した駐在所ごとに起こった出来事を、思いつくままに記述していく。
ルーズリーフは、書いたものがどんどん増えても、追加してファイルできるので便利。とにかく、その本を書くうえで必要な情報をこの一冊にまとめた。
ぱんぱんにふくれた一冊のルーズリーフノートが、本書執筆のベースになった。
新聞記事や本の抜き書きなど、時間もかかりたいへんそうだが、武田さん本人の言葉では、「それほどたいへんな作業ではありませんでした」とのこと。
また、いきなりパソコンに向かって書こうと思わず、準備段階でじっくり時間をかけることも大切だ。
このルーズリーフノートを基に、パソコンに向かい原稿を書いていった。
1ページ当たり800文字、239ページの原稿量というと、約19万2000文字。400字詰め原稿用紙に換算して480枚。相当な量だ。
「ノートがあったので、さほど苦労しませんでした。煮詰まったら、書くのをやめる。書きやすいところから書いていく」
書いた原稿は、姉に読ませ、事実関係に間違いなどないかチェックしてもらったり、感想を聞いたりした。身近な読者がいることが、原稿を書き進めるうえで、とても力になったそうだ。
本書の魅力の一つに、会話文のおもしろさがある。
まるでテープにでも取っていたのかのような、リアリティーのあるやりとりが、読む人を惹きつける。
この会話文は、もちろん著者である武田さんの想像の産物。
「ええ、もちろんフィクションです。でも、姉に読んでもらったとき、こんなことを言っていたよねえ、と喜んでもらえました。会話を想像していくところは書いていても楽しいですね」
自分史を書くときの醍醐味のようなものが、このあたりにあるのかもしれない。
武田さんは、本書を自費出版したことについて、「父親からずっと、自分が行った戦争のことを書いておいてくれと言われていたので、本書の中に書きました。少し肩の荷が下りたように思います。本を書く、出版するというのは、確かに時間やエネルギーを費やし、お金のかかる作業ですが、こうやって家族のことを残すことができて良かったと思います」と振り返える。
今は、太平洋戦争中に戦地から家族宛に届いた87通のはがきや手紙を、家族の依頼で翻刻しており、それをまとめて一冊にできればと、2冊目の構想を描いている。
駐在所暮らし
http://www.kibito.co.jp/kikan/978-4-86069-441-8.html
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