日本の近未来の〈最悪〉を描く……北野 慶『亡国記』(現代書館)

四六判356ページのボリュームを、3日間で読み切ってしまった。
面白いから、という理由からではない。
「明日は我が身かもしれない」という絶望的な気持ちに陥りながら、
「まだ今なら何とかなるのではないか……」というかすかな〈希望〉を求めて、読まずにはいられなかった。
舞台は2017年の日本。
原子力発電所の再稼働が進むなか、中部地区沖の太平洋を震源地とする大地震が起こる。
原発は臨海状態になり、原子炉は爆発。
本州のほとんどは、汚染される。
フクシマの事故を期に、京都へ移住していた主人公は小学2年生の娘と2人で国外へ逃れようとする。
福岡から釜山へ、釜山から仁川、大連、北京、リトアニア、ポーランド、イギリスへ。
そして難民の受け入れをはじめたカナダへ向かうが……。
原発事故が起きるとどうなるのか―。
難民になるというのはどういうことなのか―。
国が分断され、他国から占領されるとはどういうことなのか―。
これまでまったく想像しなかった〈怖さ〉がここにあった。
小説というかたちを取りながら、明日起こるかもしれない現実的な恐怖と悲劇を描いた作品だ。
被爆して生命を落とすのか。
国を失い、移民とは名ばかりの難民となるのか。
著者もまた、3.11以降に住んでいた関東圏から岡山へ移住してきている。
この作品を読んで、原発から逃れるため移住を決意した人たちの思いが少しだけ理解できたような気がする。
ニュースでは、鹿児島・川内原発に続き、愛媛・伊方原発など次々と再稼働の動きが出てきている。
福島原発のああいった事故を経験してきた私たちが、どうしてこうした再稼働、原発依存を容認できるのか不思議でならない。
本書で描かれた未来を避けるためにできることを、今からでも始めなければと痛感する。
『亡国記』を読んでから、原発を、日本のこれからを考えようと、言いたい。
巨大地震は、明日、いや1時間後に起こるかもしれないのだから。
最悪の〈明日〉を迎えないために、今ならまだ間に合う。
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